architecture
第7回 『デザイン×建築 アンフィニホームズ 吉川均の軌道』~“アートの街・鷹匠”を町興しの目標に定めて~
前回は、1970年代からオーガニックなLIFE STYLEを提唱してきたVAN石津健介氏の話でした。私どもは建築屋のため、これまでハード面での街づくりについて執筆してきました。今回は、石津氏から薫陶を受けたLIFE STYLEを意識したソフト面での町興しについてお話させていただきます。
私は鷹匠町にご縁があり、ここ数年間で30軒近くの建築物や店舗を設計・施工させていただきました。現在も、ほどよい和の雰囲気と、建物を通り抜けられる低層ビルの建築を手がけています。しかし、コロナ禍で近隣の丸井は来年閉店が決まり、人の回遊性が少し減ったような気がします。以前のように週末はマップを見ながら鷹匠を探索する若者も少なくなったようです。素敵なショップや雰囲気の良い街並みを探しながら裏道を歩く醍醐味。このワクワクした冒険はコロナの影響で、ウーバーやテークアウトを利用した巣篭もり生活に変わってしまいました。鷹匠は閑静な住宅街ならではの静かな生活の営みと、隠れ家的な飲食店が同居し、ふと立ち止まって中に入ってみたいという衝動に駆られる街です。その体験がやがてできると思うのです。
その時に、もっとワクワクする街になればいいなと思います。これまで、さまざまな仕事をいただいて、建物や店舗という器をつくってきましたが、人が集まらなければ建物や店舗は活気を失くしてしまいます。創造舎の山梨社長は、人宿町で自前による建物を隣接して建てることで個性的な街並みをつくってきました。そこには魅力ある店舗が軒を連ね、人情ストリートという縁日のお祭り的な要素も加えて、人が賑わう活気を生み出しています。社名の如く街を創造していて、その姿を傍で見ていてもワクワクする街を楽しみながらつくっていることが分かります。それぞれの街が持つ雰囲気や個性は、その街によって異なります。その街の歴史やそこに住む人たちの個性によって街が形づくられていくといっても過言ではありません。
静岡市は地形的に自然と街がコンパクトに集まっていて(コンパクトシティの計画にはピッタリなのですが…)、どの街にも深掘りできる歴史や、人が集い、賑わいのある雰囲気がつくれる町興しのヒントが転がっていると思うのです。今後は、街の魅力を建築という器から少し離れて、ソフト面から引き出すことができないだろうか?と思うです。それを私の新たな目標にしたいと思います。
▲パサージュ鷹匠
【鷹匠の町興しを考える】
静岡は、どの街にもそれぞれの特徴があり、考えるだけで、あの街にあんな建物を建ててみたい…とワクワクするのですが、今回はご縁のある鷹匠町についてソフト面での町興しを私なりに計画してみました。
鷹匠は年に2回ほど古本市が開催されます。私の知る限りでは6つの書店があり、いずれも個性豊かなお店ばかりで、児童書や古書を専門に扱う書店も2つあります。土日だけ営業している書店や店主がセレクトした書籍を取り扱う書店、そして、新静岡セノバのMARUZEN&ジュンク堂書店など、まさに文化の源、知の探究ができる本の街です。
一方、目先を変えてアートスペースを調べてみると、隣町の伝馬町を含めると5軒もあります。そして、最近急激に増えてきたのは、小さなオーガニックレストランやカフェ。無添加はもちろんのこと、時節柄、ビーガンを対象とした飲食店も増えてきました。目を凝らすと鷹匠町の特徴は健康と文化の街であり、それを求める人たちを受け入れる成熟した“大人の街”に変わりつつあります。
▲ラティエーラ鷹匠
▲グランデクレシタ鷹匠
【アートの街・鷹匠】
鷹匠町で自然発生的に誕生した健康・文化を熟成させていくことが、この街の発展につながると考えています。私は“アートの街・鷹匠”を町興しの目標に定めました。私どもが昨年手がけたラ・ティエーラ鷹匠1階に、アートの拠点となる『Art spase MUSUBI』を7月にオープンしました。現代アート作品の発表の場として、希望する方に対しては(審査はありますが…)、1年間の週単位にて無償で展示することで、鷹匠を活動の拠点とするアーティストを増やしていきます。
1年後には、展示したアーティストや町内会の皆さま、専門学校や銀行などにも協力を仰ぎながら、1年に1回の頻度でアート、ミュージック、身体と地球に優しいフードを楽しみながら鷹匠の魅力を再発見していただくアート展『ANNUALE(アニュアーレ)鷹匠』を開催する予定です。※アニュアーレ=1年に一度のアート展の意味。このイベントは、県内在住のアーティストの作品を鷹匠の空き家や軒先、駐車場などを使わせていただきながら展示するストリートカルチャーに根ざしたもので、出店する飲食店にもこのイベントだけの限定メニューをつくってもらう予定です。
ミュージシャンによる演奏をバックに街を周遊してもらいながら、鷹匠の魅力を再発見してもらうことが目的でもあります。建築屋としてのスタンスを貫きながら、石津氏から学んだ常に移り変わっていくLIFE STYLEの本質を追求していきたいと思います。その地道な活動が、アフターコロナの新たな街の価値観を育むことにつながります。成熟した文化をアピールする街として、そして、アーティストの活動に共鳴して多くの若者が集まり、ここから新しいカルチャーが育まれていくような町興しにつなげていきたいと思います。ゆくゆくは愛知トリエンナーレのような大きなイベントになればと、夢を馳せています。
※このイベントは、現在私どもが企画している内容で、さまざまな関係者に了承を得て進めているものではありません。
▲ART SPACE MUSUBI
▲ART SPACE MUSUBI (ギャラリー内)