architecture

第5回 『デザイン×建築 アンフィニホームズ 吉川均の軌道』~街づくりの夢とこれからの企画型建築を語る~

【人口減少の一途を辿る静岡市への想い】 

 人口減少が“商都”静岡市をむしばみつつあります。呉服町にも空き店舗が出て、七間町には往時の活気がありません。データを調べてみると、静岡市の土地面積は20ヵ所ある政令指定都市のなかで2番目。全国の市町村のなかでは4番目の広さです(香港より広いとは驚きです)。しかし、人口減少は政令指定都市のなかでは4番目に多く(2018年)、岡山市より人口減少が顕在化しています。『これでいいのか静岡市』という書籍によると、静岡市葵区には日本百名山の南アルプス赤石岳・間ノ岳があり、東には富士山を配し、日本で最も深い湾といわれている駿河湾があります。気候温暖な街でもあり、古くは『日本書紀』のヤマトタケルの≪焼津・日本平・草薙≫などの神話も存在し、登呂遺跡や東照宮など歴史的なエピソードも数多く存在します。ほかにも三保の松原や次郎長、そして清水港のマグロの水揚げ高は日本一、茶の名産地やサッカー王国と、その資源は枚挙に暇がありません。

 徳川家康や慶喜公が隠居後、好んで暮らした温暖な街。都心にも近い。それなのに何故人口減少に歯止めがかからないのか?それは、これらの豊富な資源の存在を全国や世界にアピールする努力を行政が怠っているのではないでしょうか?国を挙げてインバウンドの取り込みが叫ばれるなか、静岡市は豊潤な資源を≪点≫だけの観光にしてるため、静岡市に年間2000万人を超える観光入込客があるものの、宿泊は僅か150万人程度。最近はようやくホテルの建設が増加していますが、静岡の魅力を伝える努力が足りないと思います。それには観光資源を有効的に≪要所の連続した面≫で魅せることを考えることが必要です。このような魅力が無いため若年層が静岡離れを起こし、東京一極集中のなか静岡市は一人負けしています。街に活気がなければ魅力を失い、人が減り、商売や地元企業の業績が落ち込む。私ども建築会社も苦しい環境のなかで事業を進めなければなりません。人口がこのまま減少し、中心市街地がシャッター街になってしまう前に静岡市は本気で街づくりを考えなければなりません。

▲パサージュ鷹匠

【身の丈の街つくり】

 ここ数年、民間企業による街づくりが際立っています。2011年の静鉄によるセノバのオープンが中心市街地最大の新たな市場エリアを形成したといっても過言ではありません。通行量も呉服町を抜き連続トップになり、鷹匠~けやき通り~パルコへの人の流れをつくりました。一方、中小企業の若い経営者も社運をかけて街づくりに奔走しています。用宗にインバウンドを取り込むために、旅館・レストラン・温泉施設をつくったCSA不動産の小島氏。人宿町を中心に商業ビルを何棟も建設し、レストラン・劇場・物販店などを誘致して一つの街を形成。往時の祭りを掘り起こして賑わいをつくる創造舎の山梨氏。新たな6次産業に身を投じ、静岡の名産品と農業の在り方を模索してオリーブ畑の栽培に取り組むクレアファームの西村氏。中小企業の経営者が意欲的に街づくりにチャレンジしています。一人の人間の発想と実行力で、これほど街に変化があると実感するのは私だけでしょうか?これからの時代、単に依頼された建物をつくる建築屋ではなく、その街と周辺を面で捉えて賑わいをつくる街づくりを考え、エリア全体で街づくりの特徴を考えられる“デザインで施工する会社”が望まれているのでしょう。私はこれら社長達には遠く及びませんが、私の身の丈で鷹匠町のエリアを活気ある街にしようとしています。振り返ると今までに鷹匠だけで20件以上の建物や店舗を手がけさせていただきました。

 セノバからは東のエリアですが、洗練されたお店がいつの間にか佇む街。そんな街にしたくて新たな計画を進めています。思い返すと東京から転勤してきた当時の会社の所在地が鷹匠でした。以来、何かにつけ鷹匠町には関わりがあり、現在は私自身、平日は鷹匠で暮らす毎日です。静岡市のさまざまな街を限られた人達がデレクションによって活動していますが、いずれはそれが点ではなく広い面として静岡市の街の魅力になれば人口増加に繋がると思うのです。後は行政がどのようにプランニングしていくかによりますが、現在再開発で市が静岡駅前に地上30階建ての高層ビルを進めているようですが、それが人口減少に歯止めをかける計画なのか?50年後にその建物はどうなっているのでしょうか?静岡市には、豊富な資源を活用した身の丈に合った街のグランドデザインを考えてもらいたいと切に願います。

▲用宗古民家リノベーション

▲マンション

【どんな街になるべきなのか?】      
             
 以前から静岡市は地形的にコンパクトシティ化しやすい街といわれてきました。ならば、是非そんな街の静岡市を夢見ています。最終回なので、私の勝手な想いを書かせていただきます。静岡市だけでなく地方都市は自動車に依存してきました。人口が減るなか一言でいうと“歩いて暮らせる街”になるべきだと思います。どうしたらできるのかを考える事が必要です。静岡市にも郊外の大型店があり、クルマでドライブしてランチとショッピングをして一日を楽しむライフスタイルとは別に、個性的なアイテムを取り揃えたお店でクルマに縛られず、夕方になったらお酒も愉しめる中心市街地ができれば…と思います。クルマが必要な街から“歩いて楽しめる街”に変貌してほしい。そのためには中心市街地の公共交通の問題や郊外から街に入るための大きなパーキングのほか、景観を維持するために青葉シンボルロードなどの植樹化や常磐公園などの公園整備は欠かせません。何よりもアートやさまざまなメッセージがあふれる街になればと思います。フランスのストラスブールのようにバリアフリーで素敵なトラム(LRT)が中心部を駆け抜け、街灯からトータルデザインで統一された歩行者専用の空間や自転車走行道路が“街の快適さ”を生む。郊外から訪れる人や観光客のために大きなパーキングを駿府公園につくり、トラムとのアクセスを図る。静鉄の今田社長に期待したいのが、以前静岡市との間で検討されていたLRTの導入です。新静岡~七間町、区役所。新清水~日出町、清水駅の計画です。静岡市は導入に向けて研究会を立ち上げたものの、その後、静岡市からのアナウンスはさっぱりです。

 『フランスの地方都市には何故シャッター通りがないのか』という書籍によれば、時代は≪自分を大切にする≫文化が進み→≪自分にご褒美≫というキーワードによる店舗が増え、“不確実な未来”より、いまを大切にする人々が物質より人との繋がりを望むことで、それが街つくりの大きな原動力とキーワードになります。週末にはトラムで街に出かけ映画やショッピング楽しみ、夜はレストランで食事をする。そんな“歩いて楽しい街”をつくれることが、人口減少に歯止めをかける街なのでしょう。“環境”が重視される近年、クルマに対する考え方が変わってきてることも事実で、最近はカーシェアリングも日本では増えています。海外では市民が運転するライドシェアと呼ばれる乗合システムやレンタル自転車が大きくシェアを伸ばしていることも見逃せません。中心街にクルマがなく広い県庁通りにトラムが走り、その一つは宮ケ崎商店街に向かい浅間神社まで歩く。もう一方は七間町を通って人宿町や駒形商店街に続く。人宿町から少し左折して歩けば樹々の多い自然公園になった常磐公園や、テラスと樹々と音楽が流れる青葉シンボルロードには毎週朝市マルシェで賑わい、呉服町にはクルマが一台も通らず年中歩行者専用の空間になる。自転車専用の道路があり、のんびりショッピングを楽しむ。着工が始まった駿府城や東照宮までの道が分かりやすく整備され、清水港や用宗港までの自転車ロードも整備されて、海を見ながらのスポーツイベントが行われる。海外の旅行者もあちこちで静岡の食材を味わっている。温暖で文化的な街・静岡に注目が集まり、人口は年々増加していく。そんな街になれたら建築のデザインも変革、、静岡独自の文化が形づくられると思うのです。以前の清水市をあまり知らないため一概にはいえませんが、同じように構想できるはずです。そんな静岡市の街づくりを楽しみに連載を終えたいと思います。

▲トラム

▲赤石岳