architecture
第4回 『デザイン×建築 アンフィニホームズ 吉川均の軌道』~吉川 均氏 住宅建築を語る~
台風15号の猛威で千葉県では大変な被害に襲われました。停電はピーク時で64万軒、停電による影響で断水が各所で起き、水・電気のない生活を強いられました。同時に風雨による住宅損壊は3万棟におよびました。
私の父が新聞記者だったこともあって転勤が多く千葉県で高校時代を過ごし、八街・成田・山武と被害が多かった地域の友人が多いため、ことさら心配な日々を送っています。この被害を建築を生業としてる観点で考えてみると、テレビで被災地が映し出され、損壊した屋根にかかった簡易なブルーシートのあまりの多さに、震度7にも耐えられると強さを強調してきた最近の住宅建築とは一体何だったのか?と思うのです。住宅損壊3万棟の多くが屋根からの被害とは、地震には強いが、実は風雨には弱いという事を露呈した光景のように感じたのは私だけでしょうか?“本当に強い住宅”とは何なのか?と、あらためて考えさせられることになりました。
【地球や私達を取り巻く環境】
信じる人もいない人もいる温暖化ですが、最近の異常気象を見れば明らかに影響があると感じます。日本は今、秋真っただ中なのに10月になっても30℃を超える日が何日も続いています。2080年には世界の海面が40㎝上昇し、世界で2億人の人たちに被害がおよぶといわれています。また、今世紀末には地球の平均気温が4.8℃上昇するといわれ、南極・グリーンランドの氷が溶けて海面が約1m上昇するともいわれています。海に近い東京江東区・墨田区・江戸川区・葛飾区などは、ほぼ水没し、大阪では北西部から堺市の海岸線がなくなるといわれています。静岡の海岸部も覚悟と対策が必要ですね。日本の温度は気候帯(気候の特色で春夏秋冬を感じる事)が毎年4~5℃北上するといわれています。同時に降水パターンが変わり内陸は乾燥し、熱帯低気圧が猛威を振るい巨大な台風(サイクロン・ハリケーン)が頻発すると予想されています。猛暑日や熱帯夜が今以上に大幅に増え、熱中症やテング熱(蚊による感染症)が増加するといわれています。日本では作物に対して気候帯に合わせた研究が進んでいますが、人生100年時代というならば、異常気象に合わせた自分の子ども達の未来を考えた新しい強固な家づくりがあらためて必要と思います。
▲A邸 RC住宅
【自然災害リスクの高い日本を再確認しよう】
私達は日本に住んでいて数々の自然災害にあってきたものの、それが日本だから・・・と思い込み、常態化していませんか?しかし、日本は世界から見れば大変な自然災害リスクのある国なのです。地震は世界の地震の10%以上が僅か陸地0.3%の日本周辺海域で起き、世界で起きている震度6以上の20%以上の地震が日本で起きています。津波は米国海洋大気圏局(NOAA)のデーターでは、日本が全世界で最大の津波災害国と予測しています(NOAAでは紀元前2000年前からのデーターを保有)。
南海トラフ地震では、静岡県は最大で25.3mの津波が襲うことが想定されています。そんな日本に原発が54基あり(止まっているのを含めて)、アメリカとフランスに次ぎ、世界第3位の原発保有国です。東日本大震災では死者2万人を超す大災害でした。台風は1959年の伊勢湾台風で5098人の死者を出し、日本は世界でもっとも危険度の高いリスク国となっています。また、日本には世界の活火山の14%、108つの世界有数の火山大国です。これを資源にインバウンドを呼び込むことも必要ですが、やはりそのリスクはあります。自然災害で死亡リスクが高い国として世界8番目とされ、とても自然のリスクが高い国だということを認識する必要があると思うのです。とはいうものの、危ない!といわれても日本から離れられない私たちは、急変する気候と温暖化の中で生活する家に求めるものは何か?を考えないといけないと思うのです。
▲S邸 RC住宅
▲I邸 RC住宅
【なぜ千葉であんなに飛ばされた屋根のある家をつくるのか?】
日本の住宅の屋根は風土によって独自の発展をしてきました。沖縄・九州のように台風の多い地域の瓦屋根は漆喰で固め、暴風雨で吹き飛ばされないようにしています。東北では雪が多いため、瓦屋根より水が浸透しにくいトタン屋根で全体重量を考えてつくられています。また、雪などが滑りやすいガルバリウムの屋根などが使われています。海が近い強風が吹く屋根は、サビに強いスレート系の屋根を使っています。しかし風の対策はどうなのでしょうか?これからますます多くなる巨大台風の場合、屋根はとても重要なファクターであると今回の千葉の件で感じました。
そもそも屋根は、いまのような形状や部材が必要なのでしょうか?大きなビルには当たり前のように屋根と呼ばれるものがありません。なぜ住宅には屋根があるのでしょうか?日本は昔から瓦屋根の家がスタンダードで、日本家屋のデザイン上必要とされてきました。また風情という観点は否めませんが、古都でもない一般的住宅にそれらが本当に求められるのでしようか?屋根の形状が建物からせり出さずに雨・風を充分に防ぎ、強固で雨漏りのしないものであれば、今回のように風雨で飛ばされたり損壊はしません。屋根の形状そのものがハリケーンで吹き飛ばされるのは、アメリカの映像で映しだされる光景です。
※箱型の屋根の無い家・・・防水と断熱をしっかり行えば、本来屋根に求められるすべての機能は兼ね備えられます。同時に、もっと強度を求めるならいっそのこと、箱の形状そのものをモノコック構造(外皮に応力を持たせる一体形状)にすべきなのです。風雨で飛ばされない屋根と呼ばない構造です。屋根があるのは当たり前という住宅建築の常識を考え直さないと、気候変動についていけないことを千葉のケースで立証されたと思うのです。
▲M邸 RC住宅
【住宅にこれから本当に求められるものとは?】
今夏不思議な現象が多発しました。冷房設備と室外機を結ぶ配管が直接外に出ていなく天井などを通って外につないであるケースの場合、雨漏りがするといわれ調べてみると、今年の異常な猛暑の影響で天井内と配管の間で結露が生じて、それが雨漏りと間違われたようです。冷房機メーカーも今年は異常だったと発表しています。新たな自然リスクによる問題点です。
日本では近年住宅に対して利便性・快適性を謳う会社が増えていると思います。ZEHと呼ばれる創エネ・省エネ・畜エネは必要なのですが、はたしてIoT(internet of things)使った目覚めたらカーテンがあいて、自動で戸締りをするなどの利便性を追求するのは、異常気象の日本で今必要なのだろうか?と思うのです。また、サスティナブルと呼ぶ温暖化の原因となる石油エネルギーを使わない自然エネルギーは必要ですが、自然素材といって木を使うことは次の問題に対してどうなのでしょうか?
まず巨大化した自然災害リスクは、あらためて家の強度を考えることを示唆しています。東日本大震災後、震度7で倒壊しないという耐震性はもちろん、台風15号でわかった風雨対応性とゴルフ練習場の倒壊でも被害のない堅固な建物化。祇園で起きた大火災などを守る耐火性。これが人生100年時代に必要な住宅だと思います。情緒的に少々敬遠されるコンクリート住宅だけが、すべての自然リスクから守れる家はないと思います。石に近い硬度があり、しかもモノコック構造な家、自然エネルギーを畜エネし、耐火性も抜群なものがすべてのリスクに対応できる現時点でのベストな住宅だと思うのです。次世代を担う子ども達のために、異常気象や温暖化を考えるきっかけになれば幸いです。