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第10回 『デザイン×建築 アンフィニホームズ 吉川均の軌道』 ~ コロナ禍の建築は… ~

【最近の世相について】

 先行きに対する不安が先行するためなのか、行き場のない感情を代弁するかのように、全国ネットのマスコミは連日政府批判を繰り返し(確かにワクチン接種の遅れは厚労省の愚策の結果であり、ワクチン接種時期を早める事を強制できなかった政府にも問題はあるが…)、オリンピック開催の否定論の声をあげています。日本国民の70%が中止や不安を訴え、インドなどの現状を含めると、世界の誰もが危惧してる問題に対して、いまさら声高に発言する必要があるのか?と思ってしまいます。感染状況によっては開催できない事は当然で、たった一つ残された小さな明るい話題を政府や東京に一任して、ギリギリまで薄い薄い希望を持つ事は間違いなのでしょうか?

 そんなわけで、デザイン×建築の話はし難い状況です。しかし私たちのビジネスは、いずれ終息するであろうコロナ後の新たな人々の変化する価値観を先取り、予想してスタートを切る必要があると思います。

▲郊外型インナーガレージ付集合住宅

建築環境と新たな建築ビジネス

 静岡県でも昨年の住宅着工は10%ほど落ち込みました。コロナの影響だけとは思いませんが、静岡は生産年齢人口が大幅に減っている状況などが原因かもしれません。静岡市の人口減少は全国政令指定都市20市の中で4番目に多く、市の真摯な政策見直しを期待します。同時に米国バイデン政権のコロナ対策が成功しつつある中、経済復興が急速に進み住宅着工が大幅に伸びて安価な米国木材が大幅に不足し、日本では仕入れコストが3割近く高騰していることは木造住宅が大半を占める日本では大きな不安材料です。そして静岡市の街を歩けば、空き店舗は日々増加し店舗改装も激減しています。同時に昨年のスルガ銀行の大不祥事による投資物件(賃貸マンションなど)に対する金融庁の融資制限によって、弊社でも数棟の融資が不可能になりました。昨年、全国的にはコロナ関連で廃業・倒産した件数は飲食に続いて建築業が2番目に多く、建築業界は今後も不透明な予測になるのですが、価値観の変化と捉え、新たな建築ビジネスを考えたいと思います。逆境は最大の転換、チャンスと思って…。

 先日、飲食大手のワタミは居酒屋「和民」の40%を焼肉専門店やフライドチキン専門店にすることを発表しました。これは多種メニューから専門メニューへ、また酒類主体からの脱却転換を意味しています。「塚田農場」も居酒屋から焼き鳥専門店やしゃぶしゃぶ専門店などに転換しています。

 ただし、焼き鳥屋でも寿司を頼めるサプライズを創出し、賑やかな環境を変えてより専門食材に特化する事に決めたようです。ここにはいくつかのキーワードが存在し、私たちも他業種から学ぶ事が必要です。①大型→小型に②大衆的なもの→専門的なものに③密な場所→ゆったりした場所に④人にやさしい事やSDGsを実現する事を考える…などをテーマとしました。

▲インナーガレージ内部

▲シェアハウス内観イメージ

 具体的な建築アイデアを少し考えてみることにしました。小さなアパートやマンションを少人数の趣味を持つ人たちのシェアハウスに活用。写真の好きな人・庭での果物、野菜造り・週末キャンピング・お菓子をつくる人など目的を持って何人かの共同作業ができるようリノベして、仲間に拡散する拠点とする。コンポストや雨水を利用することは必須です。
コロナ禍で清潔な意識が高まる中、住宅街に最新鋭の機器(布団丸洗い・ペット専用・高速乾燥機)を導入したおしゃれなコインランドリーを無人カフェや季節用品をしまうトランクルームのような場所に置き、人件費のかからない別事業を立ち上げる。

 全国展開する居酒屋などの退店後やビルの1フロアを小ブースにリノベし、メニューに特徴のある小規模店舗の横丁を創出し、小さな賑わいをつくる(焼き菓子通り・惣菜通り・マルシェ市場)。時間のシェアで昼と夜を2業種にして街中の旧いビルにキッチンをつくり、時間・曜日のシェアキッチンとする。テイクアウト商品や個人が営む店舗のつくり置き、料理教室などにも活用できます。また、ビーガンやハラル専用のキッチンスペースも事業化が可能です。少しお金をかけて急速に技術革新している急速冷凍システムを導入して貸し出す最新型のキッチンはどうでしょう?

 しかし、一番有望なのは郊外にあると考えます。ここ数年コンパクトシティ化が世の中の潮流だったように思います。郊外の土地利用を抑制して都市中心部に機能を集中させることでしたが、このコロナ禍で密になる街中を避けて飲食店も郊外に人気が集まったようです。
 中心部から郊外に対する価値観が再度見直されると思います。都内からの転勤者もリモートで可能となり、中心部の狭いマンションから広くて駐車場のあるマンションや海などの自然景観のある場所を選んでいるように感じます。

 弊社が以前から提案している楽しむ目的としたクルマやバイクのベースキャンプ、インナーガレージやホビールームを持つアパート。ガレージに限らず工房やアトリエとしても使え、仲間とシェアしてレンタルする新たなアパート。小さな敷地を利用した月極のサテライトオフィスやリモートワークセンターも可能性があります。考え出すと際限がないのですが、不況下といえる建築業界もお決まりのように住宅・ビル・マンションをつくる時代ではありません。新たなビジネスになる企画を立案し、その市場性があるのか?また利用者から支持が得られるのか?熟考して実験し、先取りしていかなければなりません。設計事務所に丸投げした建築だけで生きていける時代は公共事業と共に終焉を迎えたのです。

▲郊外でライフスタイルを楽しむ家