architecture
第1回 『デザイン×建築 アンフィニホームズ 吉川均の軌道』吉川均氏が、鷹匠エリアの新たな街づくり構想について語る~
『DeSIgN ArchiTecture』をコンセプトに、ジャンルを問わない多彩なデザイン建築を手がけて来年で30周年を迎えます。起業する前、私はアパレル関連の業界で仕事をしていました。買い付けの為に訪れたヨーロッパの国々のデザインセンスや石造りの頑強な建築物に圧倒され、カルチャーショックを受けた私は、数年経つと私たちが作った服をみかけなくなるアパレル業界から、堅牢な建物に私なりのデザインエッセンスを加えてみたいと、何の知識もなく建築業界に足を踏み入れました。
知らぬは仏と言いますが、あらゆるジャンルのデザインを手がける建築会社を掲げ、RC住宅、木造住宅、医院建築、商業建築、マンション建築、店舗の設計・施工などを手がけてきました。創業30周年に向けて鉄骨構造を導入し、工法もコンクリート・鉄骨・木造と、あらゆる構造を手がけるまでになりました。設計・施工、資金調達、事業計画までを一気通貫で行うことにより、建築のワンストップ・プラットホームとしての存在を目指してきました。
一つのデザインを一つの建物として完結させるため、年間に多くの案件はこなせませんが、私が理想とする小回りの利くアイデアとデザインを提案させていただき、それを建築というカタチに落とし込んでいくことが、この業界を知らずに起業した私の小さな存在価値かも知れません。
今月から5回にわたって連載するページをいただきましたので、私の考える建築的考察について執筆したいと思います。1回目は、今年6月に完成するLa. Tierra鷹匠を含め、私が思い描く鷹匠エリアを中心とした街かどづくりと、低層商業建築に対する私なりの考えを述べさせてもらいます。
[ 商業建築と鷹匠の街 ]
私には低層商業建築への特別な思い入れがあります。フランスのパリや南西部のニースの街角で見た低層商業ビルやミラノ・ナポリで見た個性的なショップの数々。そしてスペインのアリカンテ・マラガの商店街。どの街も各々の特徴を生かした建物であり、それが独自の存在感を醸しだす街並みを形づくっています。一方、日本の地方都市における低層商業建築は、できるだけコストをかけない建物のなかに、出店する店舗が各々の個性を創りだし、その集合体が一つの建物になっているものが多いように感じます。私は建物自体が訪れる人に対して何らかのメッセージを発信し、その建物に入居する店舗に華美な装飾や看板がなくても、訪れてみたいと思う人たちが増えていくことで、周辺の界隈がそれに触発され、街に賑わいを生み出す独自の街並みが形づくられると考えています。
6年ほど前に完成した鷹匠のランドマーク的存在のパサージュ鷹匠の設計・施工を手がけたことがきっかけで、施主さまとじっくり話し合い、私なりの低層商業建築をカタチにした概形ができあがりました。鷹匠には閑静な住宅街らしい静かな生活の営みと、隠れ家的な店舗が同居しています。その街なみに違和感のない建物であること。そして建物自体が小さな街かどをつくり、訪れた人が思わず立ち止まって中に入ってみたくなるような建物であること。経年による風化がさらにその建物の魅力を惹きたてること。樹々や草花が成長し、建物に木陰や心落ち着く空気をつくりだすこと。そして可変性のある店舗面積を可能にする設計とデザイン。店舗のジャンルは多種多様であり、必要とする面積もさまざまです。そんな要望に対応できよう壁を可変可能にして、多彩な店舗面積に対応できる建物であること。これが鷹匠ならではの街並みや街かどをつくるための基本的なコンセプトになりました。
白い小さな街なみのパサージュ鷹匠はこうして生まれました。オーナーの理解で敷地の中に誰でも通れる小路(パサージュ)ができ、オリーブの樹々が木漏れ日をつくり、大理石には少し苔がはえ、少し剥げてきたアイアン手摺が建物の風情を醸し出し、経年による味わいや風格を少しずつ感じさせるこの頃です。しかし、白を基調としたパサージュが鷹匠以外に存在したとして、その街並みに溶け込む建物かは疑問です。街には街の個性があります。その街に溶け込みつつ、建物独自の存在感を発揮できる建物であることが大切です。鷹匠という街の歴史に根ざしながら、画廊が点在するアーティスティックな雰囲気やモダンな高層マンション、小路を歩いて探す楽しみのあるレストランやカフェがあるからこそ、パサージュ鷹匠は生まれました。2014年には『静岡市まちかどコレクション部門賞』をいただき、鷹匠のランドマークになったと思います。
では少し視点を変えて考えると、ヨーロッパには昔ながらの街のグランドデザインが存在し、街なみや色などが統一されて街区が形づくられてきました。一方、日本は平和な江戸時代藩主中心による街なみが形づくられたわけで、私は各々の街自体がそれぞれの歴史と特色を備えていると思っています。しかし、空襲で焼かれた静岡市は、金沢のように歴史的な街並みが残っているわけではありません。戦後復興に伴い多種多様な建物がつくられていったなかで街の歴史を紐解き、その街の雰囲気と現在の街なみを併せながら建物のデザインを考えていくことが、その街の商業ビル=街かどづくりに必要な考え方ではないかと思っています。
6月に完成したLa.Tierra鷹匠も、そのコンセプトは先述した鷹匠スタイルを踏襲しています。しかし、パサージュとは異なる鷹匠のランドマークを目指します。大地(La.Tierra)の上にしっかりと根を張ったLa.Tierra鷹匠では、オーナーのリクエストでアートと生命のサイクルをモチーフに、壁画には鷹匠の歴史を加え、永遠なる生命を描きました。また、壁面に配した七宝柄のタイルは人と人との絆や繋がりを意味しています。La.Tierra鷹匠は現代建築をベースに、鷹匠の街の歴史やオーナーのメッセージを取り入れた低層商業施設です。時折オーナー主催による街かどマルシェも開催され、鷹匠でのオーガニックなライフスタイルを提案する建物として発信していきます。La.Tierra鷹匠の1、2階は可変性の利く店舗になりますが、3階はSOHO(オフィスと住居一体型)をつくりました。年々空室が多くなってきている静岡市内にある商業ビルの現状を考えた私たちなりの挑戦です。
[ 低層商業建築へ ]
商業ビルが立ち並ぶ静岡市の中心市街地におきましても、私どもは低層商業ビルを手がけています。高層化が可能な地区で高層ビルを建てるのは、これまでは普遍的な手法とされてきましたが、今後も果たしてそうなのでしょうか?オフィスが入居するエリアは別として、人口減少化や家賃が低下するなか、中・小規模の商業施設は低層で特徴を生かし、入居効率の高い建物にシフトしていくことが一つの選択肢だと考えます。特色を生かして街に溶け込む小さなランドマークを造ることが、これからの時代の街かど造りだと思うのです。