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第12回 『デザイン×建築 アンフィニホームズ 吉川均の軌道』~静岡におけるこれからの地方創生は…!?~

【国の考える地方創生と静岡市】

 今回は、今年6月18日に閣議決定された『地方を元気にする』という政府の方針について考えてみたいと思います。まずは静岡市の現状を踏まえ、地域社会や私が手がける建築の未来について考えます。

 大きな流れとして、新型コロナウイルスの感染拡大によって地方都市への関心が高まり、テレワークによる価値観の変化が地方に人流を促したことで、これまでにない人材とアイディアによって地方創生をアップデートする動きが活発化しています。

 2021年度の政令市の人口減少率全国第3位(2015年は全国第4位)になってしまった静岡市は、どこまで国の方針に沿った新たな施策を打ち出しているのでしょうか?全国に20ヵ所ある政令市の人口は2015年に比べて増加傾向にあります。減少しているのは静岡市を含めた8つの政令市で、すでに人口は70万人を割り込み、税収を含めた経済的な規模(建築件数を含む)においても大きな不安材料になります。静岡市は、政令指定都市から除外されてもおかしくないほどの人口減少率なのです。

 次に閣議決定された地方活性化の内容をランダムに上げます。地方を結ぶ交通インフラの整備、地方公園などの活用による環境整備、大学のサテライトキャンパスの開校や専門学校の実践職業教育の促進、中小企業における事業拡大のための人材確保の支援や海外展開をするための協力推進、女性の起業支援を含めた地域コミュニティの発展協力、地方が支えている観光関連事業(900万人の働き手がいます)のインバウンド需要を取り込むための活性化案、日本酒や焼酎をユネスコの無形文化遺産にすること。また、地方における資金の流入を促進するふるさと納税の積極活用や、政令市を軸にスマートシティ化を目指して2025年までには100都市でカーボンニュートラルを目指す動きもあります。自転車の積極的な利用によって、首都圏や大都市を巻き込んだ多様な働き方や、前回述べたマルチハビテーション(複数の居住空間を行き来しながらのライフスタイル)などを促進するとしています。

 原稿執筆中に、菅総理の事実上退陣のニュースが飛び込んできました。この閣議決定も流れてしまうのかな…と思ってしまいましたが、野党が政権を奪還しない限り地方創生の閣議決定の内容に大きな変更はないと思っています。

 私ども中小企業は、静岡市に暮らし近隣の市町を含めて事業を行っています。なかでも際立つ静岡市の人口減少はまさにコロナ禍と共に大きな不安材料です(人口が減る=さまざまな顧客や就業人口が減る事は、私どもの事業において死活問題といわざるを得ません)。私が愛してやまない優雅な街、静岡を疲弊させない努力を静岡市は市の第3次合計画の中で6つの人口減少対策として発表しています。国の施策に比べて、静岡市のホームページを見ると実績効果の発表までは至っておらず、どのように進捗しているのかも分かりません。

 地域活性化の資金源となる「ふるさと納税」では、静岡市は静岡県(23市12町5郡)の中で18位です。1位の小山町は年間250億円、4位の浜松市は9億円を超えているのですが、静岡市はわずか1億8000万円です。静岡市の本気度に疑問を感じてしまいます。東京近郊の人口増加に伴い、移住したい県ナンバー1であるはずの静岡ですが、なぜ人口減少に歯止めがかからないのでしょうか?『世界に輝く静岡市』を掲げ、2025年には人口70万人の維持を成果目標とする静岡市の目標は、あまりにも消極的なスローガンだと感じるのは私だけでしょうか?国の目指す地方創生に対する本気度が静岡市に問われています。

【これからの街について】

 そろそろ静岡の街づくりや私の本業について考えてみたいと思います。国は2025年までに100の政令市をスーパーシティに選出して、コンパクトシティ化を進める計画です。静岡市は強みとしている全国でも数少ない平野に集中した市街地というように、コンパクトシティ化を進めるには最適な場所です。なりふり構わずスーパーシティに名乗りを上げて、真剣に取り組んでもらいたいと思います。コンパクトシティ化とは、これまで国が進めてきた郊外の住宅地の大量造成や大店法改正による郊外開発の結果、拡がった消費活動や住居になくてはならない自動車中心の社会に警鐘を鳴らす都市計画の考え方です。

▲ケアコンパクトシティ

 高度成長期の人口が増えている間、街の中心部では絶対的なパーキング不足でクルマ中心の社会に街中はそぐわなかったのですが、人口が減り、高齢化が進み、同時にコロナ禍で店舗や企業の撤退が進む中、それを逆手に利用してコンパクトな街にあらゆる機能を集約する事を国は推奨しています。富山県のように路面電車網を拡充させて自転車の活用を考える計画もあります。私は以前、「歩いて暮らせる街」をテーマに路面電車トラム(LRT)を活用してシャッター通りにならない街をつくることが人口減少に歯止めをかける事に繋がると述べました。

▲トラム

 税金についても、人が地価の高い中心部に住めば固定資産税などの地方税の増収にもなり、拡がった郊外の公共事業費(下水道設備などの公共インフラ)が削減され、その分、路面電車などの新たな交通システムやコンパクトシティ化に寄与できるはずです。菅総理が2050年温室効果ガス0を宣言しました。世はまさにカーボンニュートラルやサスティナブルの時代を迎え、エネルギー住宅や電気自動車によるCO2削減は大きなテーマとなっています。また、高齢者など「交通弱者」にとって不便な交通インフラを考え直す時期にあります。問題点や議論の余地が多々あるコンパクトシティ化ですが、静岡市は人口減少問題、そして、魅力ある地方都市に取り込むことを期待したいと思います。

▲1人当たりの二酸化炭素

【さて私たちの仕事は?】

 終わりの見えないコロナ禍によって、閉店する店舗や撤退する事務所なども増え、街は少し寂しくなりました。現状のままでは、私たち建築の仕事も減っていくでしょう。アフターコロナの世界には、人々の価値観に変化が生まれ、仕事をするオフィスが大箱からリモートを併用したコンパクトなスペースに変わり、店舗の形態はテイクアウトを重視した無駄のない省力的なスペースに変化することでしょう。同時に温室効果ガスの排出が多量な建築も、節電対策によるCO2削減・廃材のリサイクル・太陽光や風力などの再生エネルギーを活用したゼロ・エネルギー・ビルに変わっていくことでしょう。

 日常生活そのものも密集した場所から、広々とした自然の風が感じられる場所に変化し、それはレジャーや地方での生活圏の変化を急速に促すと思います。それを受け止めながら、新たな仕組みをつくることが私たち建築業界に課せられたテーマであり、それを新たな目標としていかなければなりません。

 次回の第13回では、アフターコロナを見据えた新たな事業や、カーボンニュートラルに向けた私どもの新たな取り組みをご紹介したいと思います。