architecture
第11回 『デザイン×建築 アンフィニホームズ 吉川均の軌道』~ 自然との共生の時代に ~
【コロナ禍で考えさせられた事】
新型コロナウイルスの猛威が2年以上続き、ともすれば、この日常が永遠に続くのではないか?と思ってしまう毎日。こんな生活から少し離れて、キャンプ場で焚火をしながら心身を癒し、英気を養ってきました。
世界の人口は1900年の16億5000万人から2018年には76億3100万人と4.6倍になりました。この間に都市はますます過密になり、世界の主たる都市の人口は2億2000万人から43億人に増加しました。何と100年の間に20倍です(国連世界人口白書より)。
総人口のうち都市に住む人口の割合を「都市化率」といいますが、日本の都市化率は94%(Wedge抜粋)。日本人のほとんどが都市に住み、さらなる「密」をつくりあげている現在、全世界を巻き込んだ新型コロナウイルスの感染拡大は、都市の過密さがもたらした元凶であるといわざるを得ません。
これまでは、都市生活こそが最先端で豊かな暮らしだったはずですが、コロナ禍の中で自然と触れ合うアウトドアやキャンプこそ、本当に豊かで人間らしい生き方だということに気づきました。
私が子どもの頃のように、青空の下で土のにおいを嗅ぎながら自然と共生する生活を懐かしく、そして愛おしく感じるようになりました。新型コロナウイルスがさまざまなものを分断した時代を経て、私たちは自然をもっと取り入れながら五感や想像力、そして免疫力を高める生き方を子ども達に伝え、体験させていくことが重要と考えます。そんなLIFESTYLEの提案を企業からの視点で考え、実践していこうと思います。
▲巨大なテントを設置して行われた隈研吾氏の講演会
【人間とは?そして…】
700万年前、人類は霊長類の一つとして自然界から送り出され600万年前にヒト亜科といわれる大きな脳を持った2本足で歩行する哺乳類として誕生したのが起源です。人類が生まれて700万年、そのほとんどが狩猟採集社会でした。
みずから魚や山菜を採りながら暮らす生活。移動するため土地を所有することもなく、多くの恵みを与えてくれる森や川を崇拝し、そのための儀式を行い、自然に感謝し、自然界に手を加えず、それを生きるための糧としてきました。採れたものを公平に分配し、搾取した者には厳しい処罰をする世界でした。
▲レインボーブリッジ
森の中を移動しながら生活していた人類が一変したのは、今から約1万年前の新石器時代です。工具の発展とともに農耕がはじまり人は定住をはじめました。農耕は狩猟よりも平和な生き方に感じますが、農耕は現代に続く争いの起点でもあります。土地を改良し、栽培したものを守るために文明(利便)が生まれ、やがて国家が誕生し、自国の利益のために止まることのない環境(自然)破壊につながっているのです。それは周知の森林伐採や二酸化炭素の排出量問題を超えて、砂・土・水にも悪影響を及ぼしています。
SDGsに賛同するのは当然ですが、いまの社会経済の在り方と社会システムは自由主義も社会主義も少し怖いな…と感じています。
人類誕生700万年の殆どを費やした狩猟採集生活における、人類の身体に埋め込まれた自然との共生を呼び覚ますDNAが求められている時代になったのかもしれません。何故なら、私たちは自然の中でキャンプをした時、そして夜、焚火をしている時のあの安堵感は一体何なのでしょうか?まさしく700万年前からつながっているDNAの記憶そのものなのでしょう。
何故、自然の中での体験がいま求められているのでしょうか?
宇宙(自然界)ができて100億年が経ち、小さな惑星が引き寄せられ、いろいろな物質を含んだ地球ができて46億年が経ちました。私たちが大切にしている自然の主である土は、さまざまな生物が死んで風化を繰り返し、5~6億年前に生まれました。地球の誕生から比べれば新しいですが、700万年前の人類に土は十分な栄養と五感を与えてきたはずです。
それを否定しようが私たちはこれからも、このまま文明の中に住み続けていくのですから、人間も自然界によって作られた創造の賜物だと理解して生活すれば、現在の地球環境も少しは良くなるはずです。故に時には自然に触れながら、いまの生活をダウンサイジングして、子ども達の時代にも持続可能な地球環境に貢献する新しい価値観を創りたいと思うのです。
▲大井川エリア
【スノーピーク本社のLIFE EXPOに参加】
先日、アウトドアブランドのスノーピーク本社(新潟県燕三条市)に行ってきました。5万坪を有する広大なキャンプフィールドの敷地にある巨大テントを会場にした講演会が行われました。
自然と触れ合うことの多い人は、エネルギーが満たされるそうです。
しかし、日本のキャンプ人口は僅か7%。一方、アメリカでは50%以上の人がアウトドアを楽しんでいます。自然から得たエネルギーによって、コロナ禍でもアメリカは急激なパワーで経済回復を果たしている。日本でも過疎地にいる高齢者が生き生きと暮らしています。
人間が自然や地球を支配してるなどと、思い上がったことを考えなければ地球環境も良くなっていくはずだと、とても興味深く聴き入りました。野山を駆けめぐり、土や植物のにおいを感じる体験は生きる活力を生み出し、五感から豊かさを感じるかけがえのない体験なのだとあらためて感じさせられました。
▲スノーピーク本社
【都市生活と自然との共生】
弊社は都市に住む人と自然豊かな地方に住む人との交流を次の時代のファクターと捉え、小規模ですが自然と共生するアウトドアパークを来年大井川エリアに開業します。都市に暮らす人たちに青空を見ながら四季の移ろいを感じてもらい、食でアウトドアの醍醐味を楽しみながら、キャンプ場にも足を運んでもらうポータルとしてのレストランも併設する予定です。
この計画は経営革新事業に認定され、資金調達の面倒は無くなりましたが、どのように自然と共生していくのが最良の方法かを検証していくための時間が必要です。私どもは建築のジャンルを超えて、これからのLIFESTYLEのメッセージを提案していきたいと考えています。
これからの時代、人はマルチハビテーション(複数の居住空間を行き来しながら生活するライフスタイル)しながら、特定の居住区域に縛られない生活をすることで、人間らしい生き方を求めていく時代がすぐそこまで来ていることを実感しています。
▲イベントオアシスSORA